Sep 30, 2020
今の忙しいビジネスの中で、単刀直入にすぐに商談に入ることで双方の時間の節約になるとお考えになる方もいらっしゃるかと思います。まだ相手が、初めて会う我々に疑いの目を向けてきている状態でしたら如何でしょう。挨拶も程々に、こちらの思いを気にもかけず話を勧めようとするセールスに不信感を持たせる可能性があります。それこそ時間が無駄になります。
世間話が終わった途端、すぐにセールス・ピッチを切り出した場合は如何でしょう。これも、折角かけた時間を無駄にする可能性を秘めています。多弁なセールスなんて聞こえはいいかもしれませんが、買い手によってはお調子者のレッテルを貼られて終わるかもしれません。
根本的に乗せておくべき点として、適合性の度合いがあります。集積されたデータ、説得力、明白な論理、熱意のある話し方はどれも、『買い手のニーズと合っているときにだけ』意味を成すのです。大切なのは、何が買い手のニーズなのかを引き出すことです。厳しい買い手を相手とした場合、用心深くて自分の情報をほとんどくれないのに、こちらの情報を多く要求されるので、まるで悪夢のようになるケースもあります。
それでも、買い手のニーズをなんとか把握しなければなりません。ニーズが何なのかはっきり分からず、自分のセールス・トークをどんどん始めてしまうと、セールスプロフェッショナルとして信頼を損ねる可能性もあります。もし、買い手が自分のニーズを最初の商談で赤の他人と共有したいと思っていなかったら、せっかくの機会も『ご挨拶に伺いました』程度の成果しか得られないでしょう。
適合性とは、こちらが持っているものと相手が欲しているものがうまく一致しているかどうかということを意味します。それを理解できるようにする方法は、セールス・トークをすることではなく、相手のことを理解できるようにしっかりと事前に考えた質問をし、細心の注意を払って相手の答えを聞くことです。至って単純なことに聞こえますが、これができていないセールスを目にする機会が多くあります。
商品の良さを伝えようと「話す」ことに熱心になるあまり、それが「売る」方法だと勘違いしてしまいます。こちらが提案する解決案は、商談の中で顧客のニーズが把握できるまで提示してはなりません。そして、そこに到達するためには、話をするのはほとんど顧客でなくてはならないのです。顧客がピンク色の商品を欲しがっているのに、青色の魅力をどれだけ伝えたとしても、それで売れるほど今の時代のビジネスは甘くありません。
では、正しいセールス・トークは何を、いつから話せばいいのでしょうか。
日本の商談スタイルはたいてい1時間で、世間話から始まり、本題に入り、相手に関心があるようであれば提案を行い、エレベーターに向かう途中でさらに世間話をするというのが通例です。時にはそれより長くなることもありますが、それは相手の関心があって、時間が許す場合のみで、ほとんどの場合1時間が目安です。
経験の深いセールスパーソンであれば、最初の商談でセールスが成立する可能性が比較的低いことを理解されています。ですから、ここでは長期戦で臨み、結果をすぐに出そうと必死になる必要はないのです。日本では、提案を持って再度商談に訪れる許可をもらえれば大勝利です。もし、顧客が求めるニーズを解決する商品をこちらが持っていないのなら、「本日はどうもお時間をありがとうございました。またの機会によろしくお願いいたします」と商談を終了するのが賢明です。丸い穴に四角の釘を打ち込もうとするかのように、無理やり買わせたとしても、それは大きな商談には繋がらないでしょうし、勿論長期的なビジネスにもならないでしょう。諦めて、別の顧客を探しましょう。可能性としてプロフェッショナルとしての印象を残すことが出来、もしかすると将来的ニーズへの種まきになるかもしれません。
解決案を提示するときは、相手がピンク色か青色のどちらが欲しいのか分かるまで、資料やサンプル、事例などを出すのは控えます。できればこのような資料はカバンに入れたままにするか、隣の椅子の上にでも隠しておいて、相手に見られないようにします。顧客が必要としているニーズを聞き取った上で、必要なものだけ選りすぐって相手に見せるのです。折角準備した光沢のあるパンフレットや美しいサンプル、かっこいいプレゼンテーション・スライドを見せることでご自身はわくわくするかもしれませんが、ここで感心させなければならないのは顧客です。顧客を感心させる唯一の方法は、求められるものをこちらが提示することです。
急がず、ゆっくり時間をかけて信頼関係を築くことに集中してください。商談で時間が許す限り、顧客にできるだけ彼らのビジネス、市場の現況、適切なタイミング、好み、悩み、経験、先入観など、たくさん話してもらいましょう。
セールス・トークを始めるのはこれらのことが把握できてからであって、その前ではないのです。